液晶の特徴|分子がそれぞれの魅力を発揮できる理由

我々の研究対象は「液晶」です。「液晶」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。おそらく、液晶テレビや、スマートフォンの画面などの、液晶ディスプレイではないでしょうか。しかし、研究対象が「液晶」と言っても、ディスプレイの研究をメインにしているわけではありません。ディスプレイどころか、「こんなものができたらいいのに」という売り物になるような目標があるわけですらなく、興味本位で「液晶」をいじって、驚いたり、感心したり、納得したり、という毎日です。

では、「液晶」というのは何なのか、ということですが、実は、液晶というのはディスプレイを指す言葉ではなくて、一つの「状態」を示す言葉なのです。みなさんは「固体」「液体」「気体」という言葉をご存知だと思いますが、普通の物質は温めると、この三つが順番に現れます。例えば、水の場合には温めると「氷」→「水」→「水蒸気」と変化します。分子が動けなくなる「固体」には「結晶」と「ガラス」があり、「結晶」は分子がキレイに並んで固まったものです。「液晶」は「液」と「晶」の二文字でできていますが、「液」は液体を、「晶」は結晶を意味しています。つまり、「液体」と「結晶」の両方の性質を併せ持つ状態という意味なのです。

「液晶」は、特殊な物質の「結晶」が温められて「液体」になる時に、途中で現れます。「結晶」はダイヤモンドや、塩の結晶、氷などのキラキラしたものですが、キラキラしているのに、液体みたいに流れるのが「液晶」です。キラキラしているから、光を通したり反射して遮ったりする上、流れる性質があるので、その光の通る通らないをスイッチできるのです。だから、液晶ディスプレイに使えるのです。

 

一方で、我々が興味を持っているのは「なぜ液晶がそんな性質なのか」です。液晶は「分子」が集まって初めて現れます。液晶の分子には形に特徴があります。例えば、鉛筆のように細長い棒状の分子です。たくさんの色鉛筆を想像してみて下さい。箱に収められた色鉛筆は、どこにどれがいるかが決められていて、どちらを向くかも決まっています。結晶はこんな感じです。箱をひっくり返すと色鉛筆の方向も場所もグチャグチャになります。液体はそんな感じです。広がった色鉛筆を手で拾うときを想像すると、ある程度同じ方向を向いて揃いますよね。でも、手を動かすと場所は変わりますね。液晶はそういうものです。同じことをビー玉でやろうとすると、結晶と液体は作れますが、液晶は作れません。つまり、分子の形が細長いことが大事なのです。

我々の研究では、新しい細長い分子を作ってみたり、それが並ぶ様子を眺めてみたりしているだけなので、自由も余裕もあって、家庭生活には何の支障もないように見えるかもしれません。が、生活の中で突如いろんなアイディアが湧いてきて、いきなり研究のスイッチが入ってしまうことがあって、これがちょっと困りものです。ある時、家でぼーっとしているときにミラーボールが思い浮かんで、液晶でミラーボールを作ってみようと思い立ち、実際に1mmにも満たない小さなミラーボールを作りました。そんなミラーボールをたくさん並べると、光で超高速の計算や通信ができるようになる可能性があるというのが後からわかってきました。何に使えるかを考えて始めた研究ではないのですが、こういう研究成果を発表すると基礎だけでなく、その応用にも興味を持ってくれる人たちが世界中にいるので、いろんなところに論文を書いたり、講演をしたりするわけです。