イオン液体と無機膜の融合を目指した分離膜開発

膜を使った分離技術とは

「膜分離法」は、相変化を伴わず、連続操作が可能な分離技術です。省エネルギーで分離操作が可能であり、装置がコンパクトかつスケールアップが容易、操作がシンプルであることから高い注目を集めています。

膜分離法の原理は大きく分けて2種類あります。1つ目は、透過させたい分子などと膜の細孔径の大きさの関係を利用するもので、濾過が該当します。2つ目は、透過させたい分子と高い親和性のある材料を膜にし、相互作用の大小関係を利用するものです。例えばCO2を回収したい際は、アミンなどの塩基性材料を膜素材にすることで達成することができます。

西山研究室では、ゼオライトやカーボンといった無機材料を利用した分離膜だけでなく、「イオン液体」という材料に着目した分離膜研究に取り組んでいます。

図1 膜を使った分離技術

イオン液体とは

「イオン液体」は室温付近でも液体として存在する「塩」のことで、水、油に次ぐ第3の液体として着目されている新規材料です。大きなサイズの有機カチオンと様々な無機・有機アニオンの組み合わせがあります(図2)。

図2 イオン液体の構造組み合わせ

イオン液体は様々な興味深い特徴をもっており、その1つがカチオンとアニオンの組み合わせにより、親水性と疎水性を切り替えられることです。例えば、塩化物イオンを含むイオン液体は親水性であり、フッ素を含むイオン液体は疎水性を示します。このため、一口にイオン液体の膜と言っても、用いるイオン液体により様々な場面で利用できます。

では、どうやって作製するのでしょうか?最も簡単な作製方法は、フィルターに染み込ませる方法です(図3)。しかしながら、このような作製法で得られた膜に圧力をかけると、イオン液体はフィルターから漏出し、分離膜としての機能が失われてしまいます。そこで、安定性の高いイオン液体膜の開発が求められています。

図3 含浸法によるイオン液体膜の作製

イオン液体と無機材料の融合を目指した研究

西山研究室では、これまでの無機膜の研究を基盤とした新しいイオン液体膜の開発に取り組んでいます。私たちは、イオン液体の構造を側鎖にもつイオン液体「シリル化イオン液体」に着目し、これを重縮合した構造体をセラミック支持体と複合化させることで、イオン液体の特性を示す有機無機ハイブリッド膜を世界で初めて作製しました(図4)。この膜は、イオン液体がシリカネットワークを通して支持体に化学固定されているため、高い安定性を示すことが期待できます。

これまでに、トルエン/水素系ではトルエンを、水/メタノール/水素/二酸化炭素系では水とメタノールの両方を同時に透過回収できることを見出しており、高い蒸気/無機ガス分離能を確認しています。現在、本膜のさらなる可能性を研究しています。

図4 研究グループで開発した新規イオン液体膜コンセプト

本研究の成果はこちらへ。

1. トルエン/水素分離

2. メタノール合成系への展開