気体包接化合物(gas hydrate)っていったい何ですか?
気体包接化合物(gas hydrate; ガスハイドレート)とは,内部の空隙にゲスト分子を閉じこめた水分子の大小の「かご(cage)」からなる結晶体です。その「かご」には,たくさんの種類が報告されていますが,良く知られているのは,S-cage(5角形12面体),M-cage(5角形12面+6角形2面の14面体),L-cage(5角形12面+6角形4面の16面体)であり、他に数種類の「かご」の存在が報告されています。気体包接化合物の構造は,主に「かご」の中に閉じこめられたゲスト分子の種類によって変化することが知られています。二酸化炭素やメタンなどの比較的サイズの小さい分子からできるハイドレートは,構造-I(structure-I)という構造をとることが知られています。右に模式図を示しますが,図中の○は,水分子の酸素原子を表しており,水素結合によって「かご」が構成されています。その「かご」の中にゲスト分子(図中の青い●)が1分子だけ包み込まれています。
よく知られているメタンハイドレートの場合,(理想的には)メタン1分子に対して水分子が5.75個の比で構成されています。つまり,約85%が水でできているのですね。このメタンハイドレートの構造-I型以外にも、中に入るゲスト分子の種類などによって、数種の構造があることが知られています。
我々のグループは,このガスハイドレートをさまざまな分野で利用するために,分子レベルの構造解析や,熱力学的な安定性,反応特性を研究しています。
気体包接化合物(ガスハイドレート)をどういうことに利用するのですか?
・エネルギー資源・環境問題
・ガス輸送,貯蔵(水素や天然ガスなど)
・海水淡水化
・ガス高圧分離
・エネルギー貯蔵媒体としての利用(冷熱貯蔵など)
・光反応場としての利用
など,多くの応用技術が期待され,世界各地で研究が進められています。
研究室ではどんな実験をするの?
研究室では,最高使用圧力が500 MPa(5000気圧)までのいろいろな高圧セルや、色々な分析装置を使って,
・様々なガスハイドレートの安定境界曲線の測定(どんな温度・圧力でガスハイドレートが生成するか?)
など,純粋および混合ガスハイドレートの熱力学的な安定性・反応特性などの基礎情報を明らかにしてきました。さらに、ハイドレートを利用した技術開発を進めることを目的として,分子レベルでの混合ガスハイドレートの構造解析と分光学的手法による水素結合エネルギー状態の解明、ガスハイドレート結晶の成長機構に関する研究を手掛けています。
・顕微レーザーRaman分光装置にて,ガスハイドレート結晶内のゲスト分子の分子内振動スペクトル,「かご」を構成している水分子の分子間振動スペクトルの測定と,その圧力依存性。(かごの中でどうしてるの?)
・混合ガスハイドレートの結晶構造相転移現象の解明(私は、組成によっていろいろな姿に変わるんです。)
・模擬天然ガスハイドレートの生成・分解速度の測定(あなた,もっと速く分解してよ!!)
・ベンゼン環などの比較的サイズの大きな物質の結晶ができるのか?(ふふふ,水素結合の檻(かご)に入るかい?)
・ガスハイドレートにγ線を照射してできたゲスト分子ラジカル種のESR測定(ラジカルさん、かごの中の「いごごち」はいかが?)
・ガスハイドレートを蓄熱材料とした冷熱貯蔵(0℃以上なのに、氷みたいに冷たい・・・?)