分子集合系計算科学セミナーを 8/2 に開催
講師:中村壮伸(産総研),満田祐樹(大阪公立大),吉田旭(京大)
日時:8月2日(金)11:00-15:30
場所:ハイブリッド開催(大阪大学豊中キャンパス基礎工学研究棟講義室C231 (中村),A403 (満田,吉田),Zoom)
11:00 - 12:00 C231 中村壮伸「反応を記述する理論とモデル」
13:30 - 14:30 A403 吉田旭「微小系の混合と反応の自由エネルギーの操作的決定」
14:30 - 15:30 A403 満田祐樹「分子動力学計算における自由エネルギー地形とEnhanced Samplingの考え方」
要旨:
• 中村壮伸「反応を記述する理論とモデル」
MDシミュレーションで扱われる反応に関する2つの独立した話題を紹介する。一つ目は自由エネルギー地形(FEL)に関する話題である。従来用いられているFELは、引数の表示法によって非物理的な依存性をもつため反応経路や反応率などの定量的予測能力が欠けていることが知られていた。我々は物理的に妥当な3つの要請に基づき、従来の問題点を克服したFELの公式を一意に導出した。我々のFELは、時系列データ解析によって得られる量のみで表現されるためシミュレーションによるデータ解析に耐えうるものであり,反応に関する定量的な予測能力を持つ二つ目は化学反応のMDシミュレーションに関する話題である。古典分子シミュレーションで化学反応を扱う際、反応力場(ReaxFFなど)が一般的である。反応力場は量子力学に基づき精密に設計されているが、古典力場(LJなど)より計算コストが高い。一方、相転移現象などの定性的再現には低コストな古典力場が有用であることから、化学反応の定性的再現が可能な古典力場があると有益である。我々はこの視点から古典力場で化学反応を表現する方法を提案する。
• 吉田旭「微小系の混合と反応の自由エネルギーの操作的決定」
近年、ナノスケール溶液の熱力学測定や物性制御が盛んに行われている。溶液の物性を議論する上で、物質の混合と反応による自由エネルギー変化が重要であり、ナノスケールにおけるこれらの自由エネルギーの同定は必須である。ところで、ここ30年で、ゆらぐ系の熱力学や情報熱力学などの、微小系を熱力学的に記述する枠組みが発展しており、ナノスケールの物質の熱力学的性質を議論することが可能となってきている。そこで、我々は熱力学的な視点に立ち返り、混合と反応による自由エネルギー変化を計算する方法を考案した。混合自由エネルギーは、MDシミュレーションで効率的に計算するために、フィードバック制御を用いて混合に対応する操作を構築し、この操作に要する仕事から計算する。化学反応は、古典力場を用いて化学平衡を定性的に再現するトイモデルに対して、粒子をくっつけるフィードバック制御を導入することで、仮想的な「反応」を表現する。この「反応」に対しての自由エネルギー変化を議論する。
• 満田祐樹「分子動力学計算における自由エネルギー地形とEnhanced Samplingの考え方」
分子動力学(MD)計算を利用した自由エネルギー地形の計算は、分子シミュレーション分野において重要な役割を持つ対象の1つである。そのため自由エネルギー地形を計算する多くの研究が行われているが、通常のMD計算で求めることは困難であり、その大半の研究ではEnhanced Samplingが使用される。そこで本セミナーでは、分子シミュレーションと統計力学の基本を元に、Enhanced Samplingによる自由エネルギー地形計算の考え方について解説する。我々の研究では、多次元自由エネルギー地形の計算手法の開発を行っている。その中で、ただ多次元自由エネルギー地形を計算しただけでは、有用な結果を得られないということが分かってきた。それを示すため、Enhanced Samplingを利用した多次元自由エネルギー地形の計算例として、我々の行ったMetadynamics法と反応経路ネットワーク解析を利用した水中のMet-enkephalinの安定構造探索の結果を示す。この計算結果から、多次元自由エネルギー地形のみでは実験結果を再現するようなデータは得られず、そこから速度論的な解析を行って初めて正しい結果を得ることができると分かった。
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世話人:笠原健人(大阪大),石井良樹(北里大),肥喜里志門(立命館大),吉田悠一郎(大阪大)
分子集合系計算科学セミナーHP: https://sites.google.com/view/bunsisyugo/