【プレスリリース】貴金属触媒の硫黄耐性の大幅向上に成功!
当研究室の成果が「JACS Au」誌に掲載され、その成果のプレスリリースを行いました。
論文タイトル:“Phosphorus-Alloying as a Powerful Method for Designing Highly Active and Durable Metal Nanoparticle Catalysts for the Deoxygenation of Sulfoxides: Ligand and Ensemble Effects of Phosphorus”
著者名:H. Ishikawa, S. Yamaguchi, A. Nakata, K. Nakajima, S. Yamazoe, J. Yamasaki, T. Mizugaki, T. Mitsudome
論文誌 JACS Au, 2022, 2, 2, 419–427.
URL先 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacsau.1c00461 (どなたでも閲覧可能です)
成果の概要 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220112_1
概略
石油などの化学製品の原料に不純物として含まれている硫黄成分、または、硫黄を含む有機化合物は金属に強く吸着し、触媒活性を著しく低下させることが知られています。したがって、硫黄耐性の高い触媒の開発が求められてきました。
今回、私たちの研究グループは、貴金属とリンとを合金化すると、貴金属の硫黄耐性が著しく向上することを見出しました。中でも、ルテニウムとリンとを合金化した、組成式Ru2Pで表される直径約3ナノメートルのナノ粒子触媒(Ru−P/SiO2)は、スルホキシドからスルフィドへの脱酸素反応において、リン化していないルテニウムナノ粒子に比べ10倍の活性を示し、その触媒回転数は世界最高値(12,500)を示しました。
硫黄化合物の脱酸素反応は、化学工業や医薬品合成において重要です。このRu−P/SiO2触媒の高いスルホキシド脱酸素能は、複雑な構造を持つ 生理活性物質の合成に適用できます。現在、これらのスルホキシドの脱酸素反応には有害な金属試剤やハロゲン化物が脱酸素剤として用いられているのに対して、本触媒系は水素を用い、反応後に水のみを副生するため、より環境にやさしい反応系であると言えます。
リン化の効果を検討するため、Ru−P/SiO2触媒とリン化していないルテニウムナノ粒子(Ru/SiO2)を用いて、ルテニウムに対して200等量の化合物(スルフィド)を添加した条件下、スルホキシドの脱酸素反応を実施したところ、Ru/SiO2では触媒反応が全く進行しないのに対して、Ru−P/SiO2では高収率で目的生成物を得ることができました。この結果から、Ru−P/SiO2では硫黄による触媒被毒が抑えられ、高い耐久性が発現していることがわかりました。分光学的手法による触媒の構造解析や理論計算から、Ru−P/SiO2では、硫黄が強く吸着するサイトの数がルテニウムに比べて8分の1と少ないため、触媒表面への硫黄化合物の吸着が起きにくく、高い耐久性が発現していることを明らかにしました。
このように、貴金属とリンを合金化すると、貴金属は硫黄化合物に対して高い耐性を示すことから、触媒被毒の影響を抑えた高効率かつ長寿命な次世代型触媒プロセスの構築が期待できます。本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に、1月12日(水)午前2時(日本時間)に公開されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
硫黄化合物は貴金属に強く吸着し、触媒活性を著しく低下させることが知られていましたが、貴金属をリン化すると硫黄耐性が著しく向上することがわかりました。したがって、貴金属をリンと合金化することにより、触媒毒に対して高い耐性をもつ長寿命な触媒の開発及び持続可能な化学プロセスの開発が期待できます。