【プレスリリース】安全性・耐久性・高活性を兼ね備えるスマート触媒を開発
当研究室の成果が「JACS gold」誌に掲載され、その成果のプレスリリースを行いました。
論文タイトル:“Single-Crystal Cobalt Phosphide Nano-Rod as A High-Performance Catalyst for Reductive Amination of Carbonyl Compounds”
著者名:Min Sheng, Shu Fujita, Sho Yamaguchi, Jun Yamasaki, Kiyotaka Nakajima, Seiji Yamazoe, Tomoo Mizugaki and Takato Mitsudome
論文誌 JACS gold, 2021, 1(4), 501-507.
URL先 https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacsau.1c00125 (どなたでも閲覧可能です)
成果の概要 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210409_3
概略
化学工業で重要なカルボニル化合物の還元的アミノ化反応に極めて高い活性を示すナノ触媒(リン化コバルトナノロッド)を開発しました。既存の触媒は、発火性があり大気に不安定で危険かつ触媒活性を失いやすく、さらに、高水素圧(高エネルギー)が必要でした。一方、本触媒は大気中安定であり、常圧の水素下という極めて温和な反応条件下で反応が進行します。また、反応後の触媒は繰り返し再使用できることも明らかにしました。
水素化反応は、化学工業において最も重要な反応の一つです。中でも、カルボニル化合物の還元的アミノ化反応は、得られる1級アミンが、医薬品やポリマーの原料などの様々な化学品に必要不可欠な化合物であるため重要です。化学工業における還元的アミノ化反応では、一般にニッケルとアルミとの合金を作り、そのアルミだけを塩基により溶かすことで、ニッケルをスポンジ状にして高表面積化した、スポンジニッケルが触媒として用いられています。しかしながら、スポンジニッケルは、大気中に不安定ですぐに酸化され失活します。また、その酸化熱による発火の危険性も伴います。そのため、触媒プロセスの全工程を嫌気性雰囲気下で行わなければならず、触媒の取り扱いが難しいという問題を抱えています。また、スポンジニッケルは触媒活性が低いことから、反応を促進させるためには高温・高水素圧が必要です。よって、発火性がなく、取り扱いが容易で、さらにより高活性な触媒の開発が求められていました。
今回、私たちの研究グループは、安価で入手可能な非貴金属であるコバルトにリンを加え合金化したナノサイズのロッド状ナノ合金 (Co2PNR)を開発し、Co2PNRが大気中において安定で、カルボニル化合物の還元的アミノ化反応に高活性を示すことを見出しました。Co2PNRは従来の非貴金属触媒の中で世界最高の活性を示し、様々なカルボニル化合物を高選択的に1級アミンへと変換できます。また、非貴金属触媒では世界で初めて、常圧(1気圧)の水素下という極めて温和な条件下でカルボニル化合物を1級アミンへと変換できました。さらに、開発した触媒は、固体触媒であるため、反応液からのろ過により容易に分離ができ、繰り返し使用することができます。つまり、安全性・耐久性・高活性を兼ね備えたスマート触媒を開発できました。これにより、より安全かつ省エネルギー・低コストでカルボニル化合物をアミンへと変換する、環境に優しい次世代型触媒プロセスの開発が期待されます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、現行の触媒プロセスを代替する、より安全かつ省エネルギー、低コストの還元的アミノ化反応プロセスの開発が期待できます。現在の化学工業で用いられている水素化反応用のニッケルやコバルトなどの安価な非貴金属触媒は、発火性が高く危険で、活性が不十分であるため、高温・高水素圧を必要とします。一方、今回開発したリン化コバルト合金触媒は、発火性がなく安全で、かつ温和な反応条件(常圧水素下)でアミノ化反応を効率よく促進させることができます。また、この“リン化技術”は安定かつ高活性な非貴金属ナノ粒子を作る有用な手法となるため、今後様々な実用反応に応用されると予想されます。