新聞掲載:工業化されながら不明であったポリイミド原料合成の反応機構をシンクロトロン放射光で解明!

東京農工大平野雅文教授らと満留先生、前野先生(現北海道大学)の共同研究が化学工業日報5月29日版に掲載されました。

工業生産もされていながら、これまで反応機構がほとんど未解明であった芳香族ポリイミド原料の合成反応機構をシンクロトロン放射光などを用いて解明することに成功しました。この成果により高分子の中で最高レベルの耐熱性、耐薬品性と機械的強度を示す芳香族ポリイミドをより効率的に合成する触媒の開発が期待されます。

本研究成果は、2018年5月15日に、アメリカ化学会の触媒化学専門誌「ACS Catalysis」にJust Acceptedでオンライン掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021%2Facscatal.8b01095

現状 :芳香族ポリイミドは、高分子の中で最高レベルの耐熱性、耐薬品性と機械的強度を持ち、電子部品の絶縁材料や宇宙航空用材料として使用されています。中でもポリフタルイミドは広く用いられており、その原料の合成にはフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応と呼ばれる触媒反応が工業的にも用いられています。この触媒反応では、酢酸パラジウム(II)と酢酸銅(II)を触媒とし、酸素が酸化剤として用いられますが、その反応機構はこれまで未解明な部分が多く、収率は10%程度に留まっていました。触媒活性の向上のためにも詳細な反応機構の解明が求められていましたが、反応に高温を要すること、希薄な触媒濃度でないと反応が進行しにくいこと、パラジウムと銅の錯体が混在した複雑な触媒系であるなどのためにこれまで実験的な証拠が限られていました。

研究成果 :本研究では、触媒反応で推定される中間体をそれぞれ合成・単離し、単離した推定中間体のフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応に対する触媒活性を調べました。太陽の100億倍明るい光をつくりだすことができる大型放射光施設「SPring-8」のシンクロトロン放射光を用いて触媒反応中の溶液を分析したところ、反応中の触媒は、酢酸パラジウムを触媒とした時にも反応中に推定中間体と同じ電子状態かつ同じ構造となることを発見し、そのスペクトルが、推定中間体の構造から計算されるスペクトルと良い一致を示すことを確認しました。これらの事実より、(アセタト)(ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)錯体が触媒反応中間体もしくは休止状態として実際の触媒反応に含まれていると推定されました。
 
今後の展開 :本研究成果により工業的にも用いられている触媒反応の機構が解明されたことにより、より活性の高い触媒開発の指針が得られ、電子材料用絶縁体や宇宙航空用材料にも用いられている芳香族ポリイミドの原料を収率良く合成することで、より安価に製造することが可能となると期待されます。