足場依存性細胞の培養リアクターの構築

 これまで接着因子,分化・再生のメカニズムなどの生化学,発生医学的な質的改善に対する研究は数多くなされてきたが,培養皮膚の生産方法などの培養工学的見地からの培養方法,培養制御法等の研究がほとんど行われていない.

皮膚培養

 皮膚移植の主な手順としては,患者の皮膚の上皮からケラチノサイトを分離し,初代培養を行い,数代の継代培養後細胞数を増やし,皮膚分化を誘導し,ケラチノサイトの多重層からなる培養皮膚を生産する. この培養皮膚を,患部に移植し皮膚組織の再構築を行わせる.ケラチノサイトの培養は,単純な静置培養で,接種培地交換回収等の作業からなる.

生産サイズは,患部の大きさにより異なるが,火傷患者の対象の場合は,体全体の50%から80%のサイズ,つまり数千cm2のケラチノサイトの培養行う必要がある.現在のところ,小スケール(数十〜数百cm2)ですべて熟練技師の手作業で行っている.

そのため,培養皮膚の総生産コストのうち,人件費は高い比率を占めており,医療費の高騰を招いている.

ケラチノサイト培養のためのバイオリアクターとしては, Prenosilらにより5000cm2まで培養可能な静置型リアクターを構築(下図参照)し,接種,培地交換等の煩雑な操作の自動化を成し遂げている. しかし,培地交換のタイミング等の決定は,患者個々に応じて,細胞活性,増殖速度が異なるため顕微鏡観察による熟練技師の判断に委ねている.
さらなる自動化技術の向上は,コストダウンだけではなく,ヒューマンエラーの低減をもたらすと考えられ,今後CCDカメラを付設したリアクターによるオンラインセンシングの開発および培養制御法の開発が望まれており,本研究室においても,継代培養の自動化を目指している(下図参照).

培養リアクター1培養リアクター2