〜Montmorillonite〜

酸性層状粘土鉱物であるモンモリロナイト(mont)は、アニオン性シリケート層に挟まれた層間の金属カチオンの高い交換能に基づき、種々の多価カチオン種を層間に導入できる。また、導入する金属カチオンの種類によって酸性を精密に制御できる特徴をもつ。
Tiカチオン種を固定化したTi4+-montは、2-フェノキシエタノールのフルオレノンによるアルキル化反応に高い触媒活性を示し、高機能性ポリマーの原料である99-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン (BHEPF)を高収率で与える[1]。現行のBHEPF合成プロセスでは硫酸とメルカプト酸を用いているが、Ti4+-montは腐食性の酸を代替する固体酸触媒となる。
Ti KEXAFSのフーリエ変換解析の結果、mont層間に固定化されたチタンカチオン種は、シリケート層に沿った鎖状の水酸化物種を形成していることが明らかになり、これがTi4+-montの強い酸点を発現させている。鎖状金属水酸化物は、金属水酸化物の新しい集合形態であり、montの層間を鋳型として初めて合成できた[2]
Ti4+-montを酸触媒に用いる利点に、ゼオライト触媒では反応しないフルオレノンを変換できる点がある(式1)。

Ti-mont

これは極性溶液中で容易に膨潤する柔軟なモンモリロナイトの層状構造のためである。膨潤したTi4+-mont中でも、鎖状水酸化物種の構造が保持されていることをEXAFSにより確認している。層間距離の広がったTi4+-montでは、層間の酸点が有効に利用できるため、嵩高い基質分子のエステル化反応[3]アセタール化反応[4]、および脱保護反応[5]等の酸触媒反応を効率よく進行させる。

次に、水溶媒中で特異な触媒作用を示すことが報告されているスカンジウム(Sc)に注目し、Na型モンモリロナイトを水中にてSc(OTf)3で処理することで、スカンジウム固定化mont (Sc3+-mont)を合成した。Sc KEXAFSの解析結果と、XRDから求めた3.6 A の層間距離より、Sc3+-mont中のスカンジウム種は、6個の水を配位子としシリケート層間に単核で固定化されていることがわかった[6]

Sc3+-mont触媒に用いると、ステロイドなどの合成中間体として有用な15-ジカルボニル骨格を得る重要な炭素−炭素結合形成反応である13-ジカルボニル化合物のエノンによるマイケル反応が、水中で極めて効率よく進行する(式2)。

Sc3+-mont存在下(2mol% Sc)、メチルビニルケトンと2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチルの反応は水溶媒中30℃という穏和な条件下で速やかに進行し、相当するマイケル付加体が高収率で得られる(表1 

Sc3+-montは、水中で機能するルイス酸として知られるSc(OTf)3 より高活性であり、種々の13-ジカルボニル化合物反応に適応可能である(2)。Sc3+-mont水中で機能するユニークな固体ルイス酸触媒となるのは、モンモリロナイトの親水性およびScカチオンの性質に起因している。すなわち、montは水中で膨潤し、層間のScと基質が十分に接触できるようになり、さらにSc(H2O)6の強いルイス酸性および水配位子の大きな交換速度定数から、mont層間のScは水中でルイス酸点としての機能を発揮する。
 さらに、Sc3+-montは、無溶媒条件下においても極めて高い触媒活性を示し2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチルとメチルビニルケトンの100 mmolスケールの反応ではスカンジウム基準のターンオーバー数は2時間で1000を超える(3)。この値は、現在マイケル反応で報告されている他の触媒系に比べて最も高い。

Sc3+-mont

また、アリルトリメチルシランを用いたカルボニル化合物のアリル化反応(桜井−細見反応)には、Na型モンモリロナイトを硝酸銅水溶液で交換して調製した銅イオン交換モンモリロナイト(Cu2+-mont)が有効であることを見出した(4)。


 溶媒条件下でのベンズアルデヒドとアリルトリメチルシランの反応において触媒効果を検討したところ、
Cu2+-montは、高収率で相当するホモアリルシリルエーテルを与えた。一方、Cu-SiO2Cu-Al2O3Cu-ハイドロタルサイト等の金属酸化物固定化銅触媒、および触媒前駆体である硝酸銅単独では、全く反応が進行しない。さらに、Cu2+-montは、反応溶液から容易に分離・回収でき、活性・選択性を保持したまま再使用できる。

 以上、種々の金属カチオンで交換したモンモリロナイト触媒を用いた反応系では、触媒は容易に反応液から分離・回収でき活性の低下なく再使用が可能である。さらに、Mn+-montは、無溶媒条件下においても、マイケル反応、桜井−細見反応等の炭素−炭素結合形成反応を進行させる新しいタイプの固体ルイス酸触媒として機能する。

1) Green Chem. 2000, 2, 157.

2) Chem. Commun. 2002, 690.

3) Tetrahedron Lett. 2003, 44, 9205.

4) Tetrahedron Lett. 2001, 42, 8329.

5) Chem. Lett. 2003, 32, 648.

6) J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 10486.

Cu2+-mont