〜Dendrimer〜

デンドリマーは、分子の中心から規則的な分岐を繰り返して外側に広がる単分散な高分子であり、一般的にほぼ球形構造をとる。コア、ビルディングブロック、外表面などの独立した精密分子設計が可能であり、分子内空孔などを利用した三次元的な分子構築が達成できることから、デンドリマーは多岐にわたる分野で新規なナノマテリアルとして応用が期待されている。触媒設計の観点では、分子形態をも含めたナノスケールでの分子設計により、活性中心近傍のみならず反応場の精密設計を可能にすることから、デンドリマーは従来の均一系錯体触媒と不均一系固体触媒の中間領域を埋める新しい触媒形態を提供する機能性材料として、非常に興味深い。当研究室では、当研究室では、ナノ領域の新たな触媒材料としてデンドリマーに注目し、その分子設計の自由度の高さを利用した触媒機能の開発を行い、新たな触媒分野の開拓を目指している。

外殻型固定化触媒の開発

デンドリマー外表面への触媒活性点の導入は、基質と効率よい接触が可能であるだけでなく触媒活性点の数や密度の制御が容易であるという利点を持つ。

ホスフィン化デンドリマー固定化Pd(U)錯体触媒 [1]
デンドリマー表面にパラジウム二価錯体を固定化したホスフィン化デンドリマー固定化
Pd(U)錯体触媒は、ジエンからモノエンへの選択的水素化反応の触媒として作用する。この触媒は、相当する低分子錯体よりも高活性を示し、再使用可能な不均一系触媒としても有効に機能する。

ホスフィン化デンドリマー固定化Pd(0) 錯体触媒 [2]
ホスフィン化デンドリマー固定化
Pd(U)錯体触媒をヒドラジン還元して合成した本触媒は、立体選択的なアリル位置換反応において、高選択的にシス生成物を与える。13C NMRを用いた緩和時間測定より、触媒活性点近傍の自由度の抑制が高選択性に寄与しているものと結論付けた。また、本デンドリマー触媒は、DMFなどの極性溶媒には溶解し、ヘプタンなどの非極性溶媒には溶解しない特性をもつ。DMF−ヘプタン二相系において、デンドリマー触媒が溶解したDMF溶液と反応物が溶解したヘプタン溶液は、室温では二相に分離するが、75 ℃で二相は均一となり反応が進行する。反応後、室温に放冷すると再び触媒を含むDMF溶液と生成物を含むヘプタン溶液に分離する本系は、
サーモモルフィック溶媒系と呼ばれ、従来のプロセスのような蒸留やろ過による生成物と触媒の分離が不要であり、容易に触媒を再使用することもできる。

1) J. Mol. Catal. A; Chem. 1999, 145, 329.

2) Chem. Commun. 2002, 52.

3) Chem. Lett. 2003, 32, 642.

4) Nano Lett. 2002, 2, 999.

5) J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1604.

自己組織化デンドリマー固定化Pd(II)錯体 [3]
ポリ
(プロピレンイミン)デンドリマーの末端の1級アミノ基とカルボキシル基をもつホスフィンとの静電的相互作用を利用し、自己組織化デンドリマー固定化Pd(II) 錯体を調製した。本Pd触媒は、活性点がデンドリマー表面に固定化されているため、均一系となるメタノール溶媒中、不溶化するDMF溶媒中ともにアリル位置換反応において高い触媒活性を示した。また、共有結合に比べ自由度の高いイオン結合を固定化に用いることで、低分子量Pd(II)錯体と同様の高活性、高選択性が得られることを明らかにした。

〜内包型固定化触媒〜

デンドリマーは、中心から外表面に向かうにつれて枝の数が増えるために、カプセル状の構造をとる。表面末端基の込合いを利用してナノカプセル化することにより、デンドリマーをナノサイズの“反応器”として捉えることができ、触媒をその内部に導入することで、従来の触媒には見られない新たな触媒作用の実現が期待できる。
デンドリマー内包パラジウム超微粒子触媒 [4]
溶液中でデンドリマー内にパラジウムイオンを取込ませ還元すると、デンドリマー内部で非常に安定な23nmのパラジウム超微粒子を調製できる。本パラジウム超微粒子触媒を、オレフィンの水素化触媒として用いると、デンドリマーの大きさ、すなわちデンドリマー表面の枝密度によって反応速度が大きく変わり、反応物がデンドリマー内部へ入るゲートとして機能する。さらに興味深いことに、骨格内部のデンドリマーが分子認識能を持つナノリアクターしても機能する。
デンドリマー内包パラジウム(U)錯体触媒 [5]
カルボキシル基をもつホスフィンと、末端をアルキル鎖で修飾したナノカプセルデンドリマーのアミノ基との静電的相互作用により,デンドリマー内部へPd錯体を固定化したPd(II)錯体を固定化した内包型Pd錯体は、ヘック反応において少量の配位子の添加で活性種を安定化し、高活性を示す。また、p-ジヨードベンゼンとアクリル酸ブチルの反応では、相当する低分子Pd錯体では1置換体と2置換体がほぼ11の割合で生成したのに対し、デンドリマー内包Pd錯体を用いた場合には選択的に1置換体が生成する。これは、デンドリマー内部の限られた空間内にPd錯体が存在しているために、基質の攻撃が立体的な制限を受けたためと考えられる。